骨董屋を始めた頃は「お兄ちゃん」って呼ばれていたのに

骨董屋を始めたばかりの頃のことは、今でも鮮明に覚えています。
初めて伺ったお客様の家で、緊張して挨拶をすると、奥から出てきたご婦人に「ずいぶん若いのねぇ」と声をかけられました。
当時はまだ二十代前半。出張買取に来る人間といえば年配の方が多かったので、私のような若造は珍しかったのだと思います。

それからというもの、どこのお宅に行っても「お兄ちゃん」と呼ばれるのが当たり前になりました。
茶碗を手に取り「これ、いい時代のものですね」と口にすると、「若いのにそんなことわかるの?」と驚かれたり、逆に「ほんとに大丈夫?」と心配そうに見られたり。
でも会話を重ねるうちに、「お兄ちゃんに任せるよ」と信じてもらえるようになり、その言葉が当時の私にとっては何よりの励みでした。

あの頃は、右も左も分からず、失敗もたくさんしました。
勉強不足でお客様に「全然わかってないわね」とお叱りを受けたり、家具を運ぶ時に床を傷つけてしまったり、、
でも、そんな私をお客様が温かく見守ってくださったからこそ、今まで続けてこられたのだと思います。

それから三十年近くが経ち、気づけばもう「お兄ちゃん」と呼ばれることはなくなりました。
代わりに「ベテランさんに来てもらえて安心だね」と言っていただくことが増えました。
自分では、あの頃と気持ちは変わっていないつもりなんですけれど、鏡に映る自分のだいぶ増えた白髪を見ると「まあ、そういう年齢になったんだな」と実感します。

出張買取の現場では、品物の価値を見極めるだけでなく、その背景にある暮らしや人の思い出に触れることができます。
「これは祖母が茶会で使っていたんだよ」とか、「昔、祖父が船乗りで中国から運んできたんだよ」といった一言が、お品物に命を吹き込むように感じる瞬間があります。

あの頃の「お兄ちゃん」はもういませんが、あの時に感じた緊張感や、お客様に信じてもらえた喜びは、今も私の中で大事な支えになっています。
これからも、初心を忘れずに地域の皆さまの暮らしに寄り添いながら、出張買取を続けていきたいと思います。

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